私は台湾にあるメーカーに長年勤めています。台湾で働き始めた当初、職場の雰囲気にとても驚いたのを覚えています。台湾の多くの会社では、定時になるとまるで引き潮のように社員がオフィスを去っていきます。日本のように周りの同僚や上司に気を使って残業をする光景はほとんど見られません。また、朝も就業時間ぎりぎりに出社する人が多く、中には朝ごはんを食べながら仕事を始める人もいます。最初は戸惑いましたが、今ではこれが当たり前だと感じるようになりました。
そんなある日、私の台湾人社長と日本の職場文化について話す機会がありました。話題が日本のブラック企業に及ぶと、社長は「なぜ日本人はそんな会社を辞めないのか?」と不思議そうに尋ねました。彼によれば、台湾で日本のブラック企業のような環境があれば、社員はすぐに辞めて他の会社に移るそうです。
台湾では、仕事とプライベートがはっきりと分かれているのが一般的です。日本のように夜遅くまで残業をしたり、出勤時間前に掃除や仕事を始めたりすることはほとんどありません。ただし、一部の超大手IT企業では、日本以上に厳しい時間的拘束があることもあるそうですが、その代わりに高い報酬や待遇が提供されていると聞きます。
さらに、台湾では転職が日本に比べて比較的容易です。求人サイトや人材紹介会社が充実しており、人材の流動性が高いのも特徴です。また、共働き家庭が多い台湾では、どちらか一方が仕事を辞めても収入が完全になくなるわけではないため、転職がしやすい環境にあるようです。このような点が、日本と台湾の働き方の違いを際立たせています。
ところが、数か月後、台湾でも官公庁でパワハラが横行しているというニュースを耳にしました。
このニュースを聞いたとき、「なぜ転職市場が成熟している台湾で、被害者は退職を選ばなかったのだろう?」と疑問に思いました。もちろん、それぞれに個人的な事情があるため、外部からは状況を推測するしかありません。しかし、公務員という安定した職業だからこそ、退職せずにおとなしく現状を受け入れたのかもしれないと考えました。
台湾で日本のような問題が報じられるのは、少し奇妙に感じます。しかし、働き方や職場文化が異なっていても、根本的な問題は共通しているのかもしれません。こうした事例を通じて、日台それぞれの働き方や文化について改めて考えさせられました。