基隆での選挙の争点はやはりMRT
それにしても基隆市民はなめられたものだと感じます。

台湾中の耳目を集めた昨年2014年12月の基隆市長選挙ですが、やはり国民党も民進党も「基隆までMRT(都市鉄道)を伸ばす」ことを大きな公約に掲げておりました。

基隆では選挙のたびに政治家は何度も「基隆にMRT」と念仏を唱えます。実際に基隆に8年在住している僕が思うに、なんでこんなものが必要なのか?と首を傾げたくなります。

台湾中の耳目を集めた基隆市長選挙
台湾中の耳目を集めた基隆市長選挙
金銭スキャンダルで沈んだ黄景泰(左)と市長に当選した林右昌(右)
今回の選挙では、告示まもなく国民党から出馬していた現職の市議会議長に金銭スキャンダルが発覚。鉄板の地盤である「基隆」を失うことを恐れ、国民党は急遽公認を取消、中央政界から改めて基隆出身者を担ぎ上げました。

日頃から基隆市民に見向きもしない中央政府も、国民党の劣勢を挽回しようと「4年後までにはMRTの工事を始める」なんてぶち上げる始末。

しかし案の定、選挙の結果民進党の市長が誕生しました。

基隆までMRTを伸ばすとどうなるのか?
台北から基隆までMRTを伸ばすとどうなるのか?
台北から基隆までMRTを延伸すると基隆は本当に発展するのか?
基隆は台北近郊に位置しながら、目に見えて発展が遅れていると感じます。
 
これまで街の原動力だった基隆港の競争力が落ち、また企業を誘致しようにも海と山に挟まれて土地の面積がそれほど多くありません。活気のない街並みに加え、冬は雨ばかり降るなど、台湾でも基隆は全く人気がありません。

こんな基隆に莫大なお金をかけてMRTを伸ばしても果たして意味があるのでしょうか?

僕は次の理由から全く無意味だと感じます。

まず1つ目は基隆市民にとって利便性が全く感じられないという点です。

山と海が狭まっている基隆の地形を考えるとどうみてもMRTは既存の台湾国鉄の路線とかぶってしまいます。これではあらためて路線を作る意味が全くありません。

さらに昼間は空席が目立つというのに、さらに隣に電車を走らせてもお金の無駄としかいいようがありません。ラッシュ時にもっと大量輸送ができるよう電車の運用を検討したほうが効果的です。

もう一つはこんなことをしても基隆には誰も来ないということです。

「台北に近くアクセスが便利になればたくさん人が集まり基隆の街が発展する」なんて言われていましたが、これほどうそ臭い話はありません。

そもそも先ほど述べた理由でアクセスは便利になりません。さらに台北市と比べ格段と違う福祉や生活環境、そして天気、さらにはなんといっても出勤にかかる時間的な問題と、MRTごときでマイホームが買えない台北市民が雪崩を打って基隆に移りすむとは思えません。

MRTを伸ばして得をするのは、土地価格の高騰を喜ぶ一部の基隆市民と工事に関連して私腹を肥やす政治家だけです。

新基隆市長林右昌にお願いしたいこと
テナントがほとんど埋まらない基隆の七堵駅
テナントがほとんど埋まらない基隆の七堵駅
何もかも停滞している基隆ですが、台北に近いという地理的な優位性は変わりません。この点を生かして、もっと台北市民を呼び寄せる方法を考えて欲しいのです。

例えば台北より子育ての環境をよくすることに特化してみるのはどうでしょうか?子供を産むと奨励金が台北より多くする、駅の近くに公営で夜遅くまで面倒をみてくれる価格も安い託児所をつくる、保母さんの費用を面倒みてくれる、こんな政策のほうがMRTよりさらに魅力的です。

これなら台北市にいるより通勤に少し時間はかかりますが、安心して仕事をすることができます。また小さい子供がいる若い夫婦は、高い台北市でマイホームを買うことをあきらめて地価の安い基隆に移ってくる可能性も考えられます。

無意味なMRT建設に大金を費やすより、その金を使ってもっと基隆市の生活に魅力が高まる施策をお願いしたいところです。

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